Cubaseを使用した音楽制作において、ミックスとマスタリングは作品の完成度を左右する重要な工程です。以下に、それぞれの段階で注意すべきポイントをまとめました。
初めてのマスタリングでも、この投稿を読めば重要なポイントをしっかり押さえられますので、自信を持って挑戦してください。
- CubaseでマスタリングをやりたいDTM初心者
- Cubaseでのマスタリングのやり方が一通りわかるようになる
実例はCubase Pro 13 (Windows)です。
マスタリング前にミックスの仕上がりを確認します。以下のポイントをチェックします。
- ボーカルは埋もれていないか
- 低音は強すぎないか
- 全体の音量バランスは自然か
問題あればミックスをやり直しましょう。問題なければマスタリングに進みます。
これからマスタリング方法を2つ紹介します。CubaseのProグレードをお持ちであれば外部VSTエフェクトプラグインは不要です。『マスタリング方法1.Cubase内臓エフェクトプラグイン』を使用することをお勧めします。
マスタリング方法1.Cubase内臓エフェクトプラグインを使用する
トラックプリセットを使用する
Cubaseには、マスタリング作業を効率化するためのプリセットが用意されています。これらのプリセットは、エフェクトや設定の組み合わせが事前に構築されており、楽曲の最終調整に役立ちます。
- 手順1MixConsoleの表示
「スタジオ」→「MixConsole」クリックしてミックスコンソールを表示させます。
- 手順2トラックプリセットの読み込み
MixConsoleを開き、プロジェクト内のマスタートラック『Stereo Out』を選択します。その後、『Stereo Out』上で右クリックし、『トラックプリセットの読み込み』を選択してください
- 手順3マスタリングプリセットの選択
表示されたウィンドウの検索欄に「Mastering」と入力すると、マスタリング向けのプリセットが一覧表示されます。
楽曲のジャンルや目的に合ったプリセットを選択し、適用します。
- 手順4プリセット設定の微調整
適用したプリセットのエフェクト設定を、楽曲の特性や好みに合わせて微調整します。
これらのプリセットを活用することで、マスタリング作業の効率を向上させることができます。ただし、各楽曲の特性に合わせて設定を調整することが重要です。またこのプリセットを確認したり微調することでVSTエフェクトプラグインのセッティングを覚えることができます。
エフェクトプラグイン設定を自身でやってみる
比較的簡単にやろうと考えるなら下記のやり方でうまくいくと思います。
マスタリングプラグインの順番
EQ→コンプレッサー→リミッターの順に作業を進めると効率的です。必要に応じて追加のエフェクトプラグインも導入しましょう。
EQ(イコライザー)
全体の周波数バランスを整えます。特定の帯域が強調されすぎていないか、全体の音が明瞭であるかを確認します。
- 低音をカット
- 30Hz以下の低周波数をカットすることで、不要な低音ノイズや機器由来の振動音を取り除き、ミックス全体をクリアに仕上げることができます。
- 高音域を少しブースト
- 10kHz付近を2〜3dB上げることで、全体がクリアに聞こえます。
コンプレッサー
コンプレッサーは音のダイナミクス(音量の差)を整えるツールです。コンプレッサーを使用すると、各楽器の音量差を調整し、曲全体のバランスを整え、一体感のある音作りが可能になります。
- スレッショルド:-10〜-20dB
- レシオ:2:1〜4:1
- アタック:10ms以下
- リリース:100ms以下
リミッター(Limiter)
音のピークを制限し、クリッピングを防ぎます。主にオーディオ信号の最大振幅を制御します。
- スレッショルド:-0.1dB
- ゲイン:少しずつ上げて音がクリッピング直前ぎりぎりまで調整
マキシマイザー(Maximizer)
音の音量を増幅させ、オーディオの全体的なレベルを引き上げます。音のパンチやダイナミックレンジを強調し、詳細な音質調整を行います
ステレオエンハンサー(必須ではない)
音の広がりを調整します。過度な拡張は位相の問題を引き起こす可能性があるため、慎重に設定します
以上がプラグインマスタリングのエフェクトになります。
ノーマライズ(必須ではない)
最終的な音量を一定の基準に合わせるために使用します。ただし、音質に影響を与える可能性があるため、必要最低限の使用に留めます。
注意点
複数の再生環境での確認
スタジオモニターだけでなく、一般的なスピーカーやヘッドフォン、スマートフォンのスピーカーなど、様々な再生環境で音質を確認し、どの環境でも適切に聞こえるよう調整します。
最後に全体の音量を調整します。市販の曲と比べて音量が大きすぎたり小さすぎたりしないように確認しましょう。リファレンスと聴き比べを行うのがおすすめです。
リファレンスのやり方についてはこちらを参照お願いします。
適切なファイルフォーマットの選択
最終的な配信や販売形態に応じて、適切なサンプルレートやビット深度でエクスポートします。例えば、CD用であれば44.1kHz/16bit、ハイレゾ配信であれば96kHz/24bitなど、用途に合わせた設定を行います。
LUFS(Loudness Units Full Scale)の目標値
Stereo Out でのLU(Loudness Units)メーターの目標値は、楽曲の用途や配信プラットフォームによって異なります。以下に主要な基準を示します。
- ストリーミングサービス向け
- Spotify、Apple Music、YouTubeなどの主要なストリーミングプラットフォームでは、以下のような基準が推奨されています。これは、音量の標準化を行うことで、楽曲が他のコンテンツと比較して過剰に大きくならず、快適に聞けるようにするためです。
- Spotify: 約-14 LUFS
- Apple Music: 約-16 LUFS
- YouTube: 約-14 LUFS
- プラットフォームごとに細かな違いがありますが、一般的には -14 LUFS を目標にするのが安全です。
- Spotify、Apple Music、YouTubeなどの主要なストリーミングプラットフォームでは、以下のような基準が推奨されています。これは、音量の標準化を行うことで、楽曲が他のコンテンツと比較して過剰に大きくならず、快適に聞けるようにするためです。
- CD制作向け
- CD制作では、ラウドネスが配信プラットフォームよりも高いことが一般的です。
- 推奨値: -9~-11 LUFS
- 注意: 高すぎるラウドネス(例: -6 LUFS以下)は音質が劣化する可能性があります。
- テレビや映画向け
- 映像作品では厳密な規定があり、多くの場合以下の範囲を目指します:
- EBU R128規格: -23 LUFS(欧州)
- ATSC A/85規格: -24 LUFS(北米)
- 映像作品では厳密な規定があり、多くの場合以下の範囲を目指します:
True Peak, dBTPの目標
- 配信プラットフォームでは、クリッピングを防ぐためにTrue Peak値も重要です。
- 推奨値: -1.0 dBTP
- 一部プラットフォーム(例: Apple Music)では -2.0 dBTP を推奨。
CubaseでのLUFSやTruePeakの確認と調整方法
Stereo Out でのラウドネスメーター確認
ラウドネスメータープラグインをステレオアウトトラックに挿入し、ラウドネス値をリアルタイムで監視します。外部ラウドネスメータープラグインとしては無料のYoulean Loudness Meter 2などが有名です。
Cubase Pro は標準で添付されていますので、Mixconsole の右ゾーンにあります。表示されてない場合には、右ゾーンボタン(上記スクリーンショットの赤枠です)をクリックしてラウドネスメーターを出現させてください。
マスタリング時の目標値調整
「リミッター(Limiter)」や「マキシマイザー(Maximizer)」エフェクトプラグインを使用して、目標LUFS値やTruePeak値に調整します。
マスタリング方法2.外部マスタリングプラグインソフトiZotope Ozoneを使用する
iZotope Ozoneとは
iZotope Ozoneは、マスタリングに特化したプラグインで、EQ、コンプレッサー、リミッター、ステレオイメージャーなど、多彩なツールを備えています。初心者からプロフェッショナルまで幅広く対応できる強力なツールです。適切に使用することで、楽曲のクオリティを大きく向上させることができます。
Ozoneのモジュール構成
Ozoneは、以下ようなモジュールで構成されています。これらは自由に順序を入れ替えることが可能で、柔軟なマスタリング処理を実現します。
モジュールの代表として挙げると下記になります。
- EQ(イコライザー): 全体のバランスを整える。
- Dynamics(ダイナミクス): 音量の均一化。
- Exciter(エキサイター): 音に鮮明さやアナログ的な質感を追加。
- Imager(イメージャー): ステレオ幅を調整。
- Maximizer(マキシマイザー): 音量をリミッターで調整し、クリッピングを防止。
- Vintage Modules(場合による): アナログ的な暖かみを加える。
マスタリングアシスタント(Master Assistant)の使用
AI技術を活用し、楽曲を解析して最適なマスタリング設定を自動的に提案します。これにより、初心者でもプロフェッショナルな仕上がりを得ることができます。
iZotope Ozoneでのマスタリング方法
- 手順1Ozoneのインストール
iZotope Ozoneをインストールし、メニューの「スタジオ」→「VSTプラグインマネージャー」を押します。
VSTプラグインマネージャーを起動させ、Ozoneがリストにあるかを確認します。
- 手順2Stereo Out のインサートに追加
メニューの「スタジオ」→「MixConsole」でミックスコンソールを開き、「Stereo Out」(マスター出力)を選択します。
「Stereo Out」のインサートスロットにOzoneを挿入します。これにより、Ozoneが最終的なマスタリング処理として全体のミックスに適用されます。
- 手順3「Master Assistant」を使用する
「e」ボタンを押して、Ozoneを起動します。
真ん中上にある「Master Assistant」ボタンをクリックします。”Play the loudest section of your mix” もっとも音量が大きい箇所を再生すると、Ozoneが自動的に楽曲に適した設定を提案してくれます。
楽曲のジャンルや目指す音質(Streaming用、CD用など)を選択。
- 手順4モジュールでの細かな調整
自動設定を元に、細かな調整を行います。例えば
- EQで不要な低域をカット。
- Imagerでステレオ幅を広げる。
- Maximizerで最終的な音量を調整。
注意点
メータリングの確認
Ozone内蔵の「Loudness Meter」を使って、音量レベルやダイナミクスを確認します。過度に音量を上げすぎないように注意します(LUFSを参考にします)。
プリセットの活用
Ozoneには多くのプリセットが用意されています。特定のジャンルや用途に合わせたプリセットを選び、微調整するだけで完成度を高められます。
iZotope Ozone プラグインの順番
iZotopeのOzoneは、通常はマスタートラック「Stereo Out」のインサートスロットに挿入して使用します。基本はプリフェーダーに配置することで、マスターフェーダーの位置に影響されずにエフェクトが適用され、安定したマスタリング処理が可能となります。
ただし、特定のサウンドデザインやミキシングの目的によっては、ポストフェーダーに配置することも考えられます。最適な配置は、プロジェクトのニーズや目的に応じて判断することが重要です。
まとめ
初心者でも、Cubase内蔵のエフェクトやトラックプリセットを活用することで、満足度の高いマスタリングが可能です。さらに細かい調整を加えたい場合は、プリセットを基にエフェクト設定を少しずつ調整してみてください。
Ozoneは、初心者でもAIを活用した『Master Assistant』で手軽に本格的なマスタリングを行える一方、上級者向けには細かい調整が可能な柔軟性を備えた強力なツールです。最初は「Master Assistant」で自動設定を試しつつ、自分の耳で確認しながら少しずつ調整を加えるとよいでしょう。有償のため費用が発生しますが、セールを狙えば安く手に入れることができます。